2021年12月11日土曜日

14日目 トラウマから見えるピアサポートの新たな地平

こんにちは!にしこです。

札幌に来ています。

目的は2つ。博士論文研究のための調査と、それからアメリカのオークランド大学から来日されている宅香菜子先生の講演を聴くためです。


今日は宅先生の講演会でした。「コロナ禍と心の成長 ー PTG研究から考える」というタイトルの講演会です。宅先生のご専門のPTGをわかりやすく説明していただいた講演会でした。


PTGとは Post Traumatic Growth(心的外傷後成長)のことで、「強いストレス症状を引き起こす,つらく苦しい出来事やトラウマをきっかけに,悩み,精神的なもがきを経験することで人間として成長する現象」(宅先生のHPから)をいいます。


最近、トラウマに対してピアサポートが何ができるのか、できないのかに、私の興味は向いています。それはトラウマの話題からピアサポートを捉え直したら、ピアサポートの新たな可能性や地平が見えてくるかもしれないと思うからです。




アメリカなどでは、ピアサポートの議論にトラウマの話題が取り上げられることがよくあると聞きます。「トラウマ・インフォームド・ピアサポート」という言葉もあるそうです。(りえちんさんから教えてもらいました。りえちんさん、ありがとう!)アメリカでは、精神疾患・アディクションを主に扱うピアサポートの軸(州認定のピアスペシャリストとして知られています)とは別に、退役軍人の方のPTSDを専門に扱うピアサポートの軸(こちらは連邦政府認定のピアスペシャリスト)が存在します。ひょっとしたら、後者の軸の影響からトラウマが扱われるという事情もあるのかもしれません。私の想像ですが。


一方で日本では今のところ、ピアサポートの領域でトラウマの話題が取り上げられる機会はそう多くありません。でも精神疾患や精神障がいのある私たちの仲間の多くは、大なり小なり「こころのケガ」をかかえていると感じます。それは病気になる前に負って、そして病気のきっかけになったようなケガもあるでしょうし、病気になったことで負ってしまったケガもあるでしょう。そういった「こころのケガ」つまりトラウマにピアサポートが向き合うことは意味のあることと考えます。


そしてトラウマ・インフォームドなピアサポート、つまりトラウマについて知りそれに配慮したピアサポートを考える上で、PTGはとても大きな示唆を与えてくれると思います。




今日の宅先生の講演で特に印象に残ったことは、第1にPTGは「成長を促していきましょう」といったような成長を目指していく考えではないこと。つまりベネフィット・ファインディング(成果を追い求める)といった考えではないことです。第2には相手の話にただ耳を傾けること、つまり「聴くこと」が大事で、ただその「聴くこと」は本当はかなり難しいということです。


これらのことは、私たちピアスタッフが提供するピアサポートワークにも大きな示唆を与えてくれると思います。第1点のベネフィット(成果)を追い求めないという視点は、成果としてのリカバリーを基盤としたピアサポートに対し、それ以外の形のピアサポートもありそうだということを教えてくれていると思います。第2点の「聴くこと」に関しては、リカバリーストーリーを「語る」ことでロールモデルとなるピアサポートに対して、聴くことによるアドボケイトとしてのピアサポートの可能性を教えてくれると思いました。


このように、PTGとピアサポートの接点を探りつつ、日本でのトラウマ・インフォームドなピアサポートのあり方を考えていくことによって、ピアサポートの新たな形なり可能性や地平が開けるかもしれません。




今日の講演会では他にも得るところが大きかったです、何より宅先生と直接お話しする機会をもらえて、サインまでいただいて、一緒に記念写真まで撮ってもらっちゃったー。


他のもろもろの話は次の機会に。


つぶやきびと:にしこ